なんで30分?──子どもの集中力に合わせた“時間のデザイン”
- こどもわがし教室 Mari Masuda
- 6 日前
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「なんで30分なんですか?」「75分でも飽きないんですね」と、おうちの方からよく聞かれます。たしかに“時間”って、ただの数字じゃなくて、子どもの集中力や気持ちと深く関わっているんですよね。
6月は「時の記念日」がありました。
そんな節目にちなんで、今日は「時間」にまつわるお話をしたいと思います。
テーマは、「子どもたちは、どれくらい集中していられるのか?」
そして、それに合わせて私が教室の時間をどう設計しているのかという、ちょっとマニアックだけどとても大切にしている“こだわり”についてです。
子どもの集中力って、どのくらいもつの?
和菓子づくりは、形をとらえ、手を動かし、少しずつ形にしていく繊細な作業。
一つひとつの工程に、自然と集中力が求められます。
そしてこの「集中力」は、年齢によって大きく変わってきます。
小さなお子さんを見ていると、なんとなく感じる方も多いかもしれませんね。
3〜5歳:5〜10分くらいが目安。気になることがあるとすぐに目が向いてしまうのは、ごく自然な姿です。
6〜8歳:10〜15分ほど集中できるようになります。完成させたい!という気持ちが原動力になる時期。
9〜12歳:20〜30分以上集中できる子も。自分のペースで取り組めるようになってきます。
教室では、こうした発達段階をふまえ、「子ども達にとって無理なく取り組める時間ってどのくらいだろう?」を常に考えながら、内容と時間のバランスを組み立てています。
大人でも、ずっと集中し続けるのは難しい
集中し続けるのって、実は大人でもなかなか大変ですよね。
心理学の研究では、集中力が高く保てるのは20〜30分ほど、50分を超えると注意力が急激に低下するとも言われています。
日本の学校で1コマ45〜50分の授業が基本になっているのも、そうした研究をふまえたもの。子どもたちが「ちょうどよく集中できる時間」に学べるように設計されているそうです。
集中と休息のリズムを大切に
私の教室でも、この“集中のリズム”をとても大切にしています。
たとえば、ひとつのお菓子を10〜20分かけて仕上げる工程は、子どもたちにとって集中と達成感をちょうどよく味わえる時間。その間ずっと、手と頭をフルに使い、夢中で取り組む様子が見られます。
クラス構成も“時間”から考えます
🔸基礎クラス(30分)
はじめてさんや、集中がまだ続きにくい年齢の子向け。
1種類の上生菓子練切(ねりきり)を、じっくり30分かけて完成させます。
短い時間の中に、「やりたい!」「できた!」をぎゅっと詰め込んでいます。
🔸 基礎+応用クラス(75分)※途中にブレイクあり
5歳以上が対象。
毎月継続して通っているお子さんや、「もっと深く学びたい」という気持ちが育ってきた子たちのための構成です。
前半30分では、基礎的なお菓子を丁寧に作ります。
あんこを包む、形作り、お道具の使い方などのきほんを丁寧に。
そのあと、クイズや雑談で気持ちをほぐしながら、季節や和菓子にちなんだ小さな“文化のお話”をします。
「お話、すごく楽しみにしてるみたいです!」「帰ってから、パパに一生懸命説明していました」そんなふうにおうちの方からLINEでよくメッセージをいただきます。子どもたちの記憶に残っているんだなとうれしくなります。
後半は、前半に技術をベースにした“ちょっとだけ難しい”応用作品に挑戦。
「さっきと同じだけど、少し工夫してみよう」
そんな繰り返しの中で、子どもたちの自信と表現力が育っていきます。
「ひとつにじっくり向き合う」体験
和菓子づくりは、見た目以上に繊細な作業の連続です。
こねる・包む・模様をつける・色を混ぜる…。
私の教室では、どのお菓子もだいたい10〜20分ほどかけてひとつ仕上げます。
簡単に見えるかもしれませんが、
この時間、子どもたちは一心に手を動かし、
集中しながら、自分の手で少しずつかたちにしていきます。
普段の生活ではなかなか得られない、“じっくり集中する時間”こそが、子どもたちにとってかけがえのない経験になると思います。その経験の積み重ねが、「時間を大切にする」感覚や、「自分でやりきった」という自信や誇りにつながってくれたら、うれしいなと思います。
時間の長さではなく、“集中の質”
長ければよい、というわけではありません。
和菓子づくりに限らず、学びにおいて大切なのは「どれだけ集中できたか」「どんな気持ちで取り組んだか」。
長時間だらだらと作業を続けるよりも、30分間ぎゅっと集中して取り組むほうが、はるかに充実した学びになります。
だから私は、子どもたちの集中力がもっとも発揮されるタイミングを意識して、その“いちばん集中できる時間”の中で、しっかり手を動かし、考え、達成感を味わってもらえるように、クラスの時間設計をしています。
短くても、ぎゅっと詰まった30分。
途中に休憩を入れて最後まで楽しく走りきれる75分。
どちらのクラスにも共通しているのは、子どもたちに
「自分の力でできた」「もっとやってみたい」
とワクワクした気持ちになってもらえるようにということ。
これからも、「今のその子に合った集中の時間」を大切にしながら、
一人ひとりのペースに寄り添える教室でありたいと思っています。
参考文献
Anderson, J. R. (1990). Cognitive Psychology and Its Implications.
─ 認知資源(attention)が有限であるという理論の根拠を述べた代表的な教科書。
文部科学省「学習指導要領解説」より(小学校編、総則)
─ 授業を 45分を基本単位として設計するのは、児童の学習意欲や集中力・生活リズムを考慮した教育的配慮であると明記されている。
山口 創『子どもの脳は肌にある』
─ 幼児〜学童期の感覚的集中や注意の持続について、発達心理学の視点から解説。短時間でも没入体験を繰り返すことで集中力は養われる。
Cognitive Load Theory(Sweller, J. et al., 1998)
─ 学習における「認知的負荷」の考え方。一定時間以上の連続作業は処理能力を超えやすく、適切な間隔(休憩)を挟むことで学習効率が高まるとされる。
間隔反復理論(Spaced Repetition)
─ 記憶定着・集中維持の観点からも、「適切なタイミングでの休憩や再開」が効果的とされ、50分を1つの集中ブロックとする構成が国際的に広く使われている。
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